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鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎とは

日本では約200万人の方が慢性副鼻腔炎に罹患されています。そのうち鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎は10~20%といわれています。最近の副鼻腔炎は免疫システムの異常、アレルギー体質が関与するものが増えており、免疫システムの中のどの部分が原因で炎症がおこっているのかを分類して治療方法を考えるようになっています。1型、2型、3型という分類のうち、2型(type2)の副鼻腔炎に罹られる方が多く、鼻茸が大きくなりやすく、嗅覚障害をおこしたり、組織中、血液中の好酸球数が増える、喘息を合併するといった特徴があります。ヨーロッパでは「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」はそのほとんどが「2型副鼻腔炎」ですが、日本では膿がたまる「蓄膿」タイプの副鼻腔炎(好中球型、非2型などと呼ばれます)がヨーロッパに比べて多く、これらの副鼻腔炎でも鼻茸を伴うことが多いという傾向があります。(「2型副鼻腔炎」は日本では「好酸球性副鼻腔炎」とほぼ同じ意味で使われています)

手術をしても再発する鼻茸に対しての治療

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎は内服薬や点鼻薬による治療の効果がみられないものも多く、その場合手術治療を行うこととなりますが、手術の後の鼻茸の再発が問題となります。
鼻茸の再発率は「好酸球性」、「2型」のもので高く、これらはステロイド薬の内服で一時的に改善することが多いため、手術後鼻茸が大きくなり鼻の調子が悪くなるたびにステロイドの内服薬を外来で処方され、「なんとかしのいでいる」状況の方が多くいらっしゃるのが現状です。
ただ、ステロイドの内服を断続的に続けても嗅覚がすぐに悪くなる、鼻がつまってくる、といった状況になりますと、ステロイドの内服量が増えていくことになります。近年、ステロイドの長期内服は心臓疾患、緑内障、骨粗鬆症などの発症リスクが高まってしまうということが注意喚起されるようになってきており、手術後のステロイドをいかに減らすことができるかを目標に、ステロイドより効果の高い薬の開発がすすめられてきました。この中でも「生物学的製剤」、免疫システムの中で「暴走」して鼻茸の再発のきっかけとなっている部分にピンポイントで作用する薬剤が開発され、使用されるようになってきています。この生物学的製剤は、鼻茸だけではなく、癌やリウマチ、喘息、膠原病、神経疾患、様々な分野で難治性の病気に対する新しい薬剤として活躍しています。

生物学的製剤:デュピクセント

生物学的製剤:デュピクセント

日本では2020年に保険適応となったデュピクセント(デュピルマブ)が現在鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の手術後再発に対して使用することが可能となっています。この薬剤は2型炎症をひきおこす「サイトカイン」という化学物質のうち、IL-4、IL-13という物質が細胞に働きかけて炎症のスイッチを押すことをブロックする「抗IL-4/13抗体」であり、鼻茸を著明に縮小させ、嗅覚や鼻づまりの改善に大きな効果を持つ薬剤です。重症難治性の喘息に対しても効果のある薬剤であり、デュピクセントを始めることで、ステロイドの内服から切り替えて嗅覚を取り戻し、喘息症状を改善させることが期待できます。
注射にあたっては、厳密な開始基準(症状の重症度・手術歴・鼻茸のサイズ)を確認する必要があります。また、2週間~4週間毎の皮下注射が必要であり、現時点では数年以上にわたって継続していく必要がある薬剤とされています。費用も注射1本あたり3割負担ですと約21000円と高額のため、継続するには様々な医療費助成制度などを調べて利用する必要がある薬剤です。
また、注射による副作用がおこらないように定期的に採血を行い、呼吸機能や嗅覚の変化を確認していく必要があります。
注射治療にて症状が改善し安定した方は在宅での自己注射ができますので、2か月~3か月おきの通院で治療を継続していくことが可能です。
 
日本では現在1万人以上の方が鼻茸の再発に対してデュピクセントを使用するようになっていますが、当院でも多くの方が注射治療を行っておられます(2024年5月現在、95名の方がデュピクセントによる治療をうけられています)。
昔に別の病院で手術をうけられ再発された方の治療も可能です(手術日の確認が必要となります)。副鼻腔炎の状態によっては手術治療が必要となる場合もあります。
鼻茸の治療のためにステロイドの内服が続いている、嗅覚が悪くなったままで困られている方はぜひ一度ご相談ください。

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